転職前にやること。動き出す前の準備が、転職活動の質を決める
転職前にやっておくべきことがある——という話を、自分が動く前に知りたかった。
何から始めればいいか分からない。求人を見てみたけど何を基準に選べばいいか分からない。エージェントに登録した方がいいのか、自分で探した方がいいのかも分からない。転職したいのに、最初の一歩が踏み出せない状態、というのが確かにある。
コンサル時代の僕もそうだった。転職したいという気持ちはあった。でも「転職活動」という行為のスタート地点がどこなのかが分からなくて、なんとなく求人サイトを眺めては閉じる、を繰り返していた。
転職活動を始める前の「準備」については、多くの人が一番最初に躓く場所だと思っている。
何から手をつければいいか分からないまま、求人サイトを眺めて閉じる。エージェントに登録した方がいいのか分からないまま、とりあえず登録してみる。そして面談日程が来ないまま数週間が過ぎる——このパターンは本当によく見る。
転職活動の「スタート」は、求人サイトへの登録でも、エージェントへの問い合わせでもない。「なぜ転職したいか」を言葉にすることが、本当のスタートだ。それができた上で動くのと、それなしで動くのでは、その後の活動の密度がまったく違う。
動き出す前に一度だけやること
最初にやるべきことは、「今の会社の何が嫌なのか」を紙に書き出すことだと思っている。
「なんか違う」では、転職先は選べない。何が違うのかを言語化しておかないと、次の会社でも同じ問題に当たる可能性がある。上司なのか、仕事の内容なのか、給料なのか、将来が見えないのか。30分でいいから、書き出してみる。
僕の場合、出てきた言葉は「誰かの人生の転機に関わりたい」だった。コンサルで大型プロジェクトを回しながら、それが一度も感じられなかった。言語化することで、何を探せばいいかが初めて見えた。
この作業を後回しにしたまま転職活動を始めると、条件の比較だけで転職先を選ぶことになる。年収・福利厚生・ネームバリュー。どれも大切だけど、「なぜ転職するか」が曖昧なまま選んだ転職先は、しばらくしてから「これでよかったのか」になりやすい。
お金の余裕を先に確認する
転職前に「半年間、収入が下がっても生活できるか」を確認しておくだけで、活動中の判断の質が変わる。転職活動は想定より時間がかかることが多くて、3ヶ月で決まることもあれば半年かかることもある。
活動中に焦りが出ると、「とりあえずここでいいか」になる。これが一番よくない選び方だと思う。
僕は転職活動に入る前に、当時の毎月の支出を計算して、最低6ヶ月分の生活費を手元に残してから動いた。実際にその貯金を崩す事態にはならなかったけど、「いつでも断れる」という感覚が、採用条件を交渉するときにかなり効いた。余裕があるときの方が、選ぶ基準がブレない。
「なぜ転職するか」を書き出してみる
紙に書き出す、というのは地味に聞こえるけど、効果が大きい。
頭の中で考えているうちは、「なんか違う」「なんか嫌だ」というぼんやりした感覚のままでいられる。でも紙に書こうとすると、「何がどう違うのか」「どこが嫌なのか」を言葉にしなければいけない。その作業が、転職の理由を「感覚」から「言語」に変えてくれる。
書いてみると、「上司が嫌い」が「自分の裁量がなくて窮屈」に変わったり、「仕事が嫌だ」が「この業界ではなく人に関わる仕事がしたい」に変わったりする。言語化されると、転職先に何を求めるかが見えてくる。
一度だけ、市場の声を聞いてみる
転職活動の本格化の前に、転職エージェントに一度だけ話を聞いてもらうことをすすめている。
理由は単純で、「自分が市場でどう評価されるか」を事前に把握するためだ。転職活動を始めてから「思ったより評価されない」と気づくのは、精神的にかなりしんどい。エージェントに相談するのは無料だし、自分のキャリアが外からどう見えるかを知っておくだけで、動き出しのスピードが変わる。
コンサルの経験は転職市場で評価されやすいと聞いていたけど、実際に話してみて初めて「どの職種で・どういう文脈で評価されるか」が分かった。強みだと思っていた部分が刺さらなかったり、逆に普通だと思っていた経験が評価されたりした。事前に知っておくのと、活動中に気づくのとでは、メンタルの消耗度がだいぶ違う。
転職前に「やらない方がいいこと」
転職前にやること、の話をしてきたけど、やらない方がいいこともある。
一つは「在職中に転職活動を一切隠して完璧に進めようとすること」。職場にバレないように全部一人でやろうとすると、選考の日程調整で余裕がなくなる。内定が出てから転職するかどうかを考える、というケースが意外と多くて、追い詰められた状態で判断を迫られる。ある程度余裕のある状態で内定を判断できる環境を作った方がいい。
もう一つは「転職先が決まる前に辞めること」。これは収入のバッファがある場合を除けば、かなりリスクが高い。焦りが判断を狂わせることは、相談の中で何度も見てきた。「辞めてから探す」と「在職中に探す」では、精神的な余裕が全然違う。転職先が決まってから辞める、というのが基本の順番だ。
スキルアップは転職後でいい
スキルは転職前に積むより、転職先で身につける方が速いことが多い。「もう少しスキルを積んでから動こう」と考える人は多いけど、気持ちは分かる一方、多くの場合それは先延ばしになる。
スキルは転職先でも身につく。むしろ新しい環境に入った方が、速く成長できることも多い。転職前に必要なのは「完璧な準備」じゃなくて、「動ける状態にすること」だと思う。
一つだけ例外を言うと、応募条件として資格が求められる職種は別だ。僕はキャリアコンサルタントの国家資格を、転職活動と並行して取得した。それは応募先が資格保持者を条件にしていたからで、そうでなければ転職後に取っていたと思う。資格が条件に入っていないなら、まず動き出してから考える方が早い。
振り返ると、転職前にやっておいてよかったことは「言語化」「お金の確認」「市場の把握」の三つに集約される。どれも大げさな準備じゃない。完璧な状態を待っていたら、一生動けない。まず動ける状態を作ることが、転職活動の本当のスタートだと今は思っている。
準備について相談を受けていて、一つ気づいたことがある。
「転職前にやること」として調べてくる人のほとんどが、「やること」を増やしすぎている。履歴書のフォーマットを整えて、志望動機を書いて、自己分析ツールをやって——そこまで準備してから動こうとすると、スタートが遠くなる。
一番重要な準備は「言語化」だけだと思っている。「なぜ転職するか」が自分の言葉で言えれば、他の準備は動きながらできる。言語化だけは動く前にやっておかないと、転職先を選ぶ軸がないまま選ぶことになる。
準備の量より、準備の質の方が大事だ。少なくとも転職活動に関しては、そう実感している。
「なぜ転職するか」が言語化できたとき、転職活動が本当にスタートする。それ以前は、準備ではなく「準備のための準備」をしているに過ぎない。一行でいいから、今の会社の何が嫌で、次に何を変えたいかを書いてみる。そこから全部始まる。完璧な言語化は必要ない。「なんか違う気がする」の「なんか」が少しでも具体的になれば、それで十分だ。「今の仕事で一番しんどいことは何か」という問いに一言で答えられたとき、転職活動のスタート地点に立てていると思う。そこから動いていけばいい。