転職を決断したきっかけ。8ヶ月迷い続けた僕が、サウナで動けた理由


転職したいのに、決断できない。そういう人の話を聞くたびに、過去の自分に重なる。

「なんとなく、そのときが来た気がした」「気づいたら決めていた」。論理的に説明できる瞬間というより、感覚として「もういい」と思えた瞬間、という話をよく聞く。転職の決断のきっかけって、うまく言語化できないことが多い。

僕自身も、決断のきっかけを問われると、毎回少し言葉に詰まる。8ヶ月迷い続けた末に動けたのは、特別な出来事があったからじゃなかった。踏み出せない不安を抱えたまま、じわじわと何かが変わっていったような感覚が近い。


8ヶ月、何をしていたか

8ヶ月間、転職先の条件を比較し続けて、何も動かなかった。

プロジェクトの評価は高かった。上司からも信頼されていた。「辞める理由」が、うまく言語化できなかった。毎週のサウナで「今週、誰かの役に立てたか」と自分に問いかけるたびに、答えが出なかった。それでも動けなかった。

転職先になりそうな会社をリストアップして、年収・ポジション・仕事内容を並べて比べて、「今の会社の方がよくないか」に戻る。それを何十回も繰り返していた。不安というより、「完璧な転職先が見つかってから動こう」という思考になっていたんだと思う。8ヶ月で、それをずっとやっていた。

「このまま3年後も同じことをしているか」

「このまま3年後も、毎週同じように帰りの電車でぼんやりしているのか」——ある日のサウナの外気浴中に、ふとそう想像した。決断のきっかけというより、決断を引き寄せた問いかけだった。仕事はある。収入もある。評価もされている。でも、誰かの人生が少し良くなった感覚がないまま、また3年が過ぎていく。

そのイメージが出てきたとき、背中がすっと冷えた気がした。サウナなのに。

「転職する理由」を積み上げようとしていたのが、あのとき初めて「転職しない理由」を考えていた。そして、それが思ったより出てこなかった。

きっかけは「理由が揃ったとき」じゃなかった

決断したのは、「転職する理由」が揃ったからじゃなかった。「転職しない理由」が尽きたからだった。

僕が動けたのは、「転職する理由」が「転職しない理由」をわずかに上回ったとき、それだけだった。51対49、みたいな感覚。根拠のある確信ではなく、「このまま3年後も同じなのはない」という感覚が先にあって、後から理由がついてきた。

決断の3日後には、転職先に連絡していた。8ヶ月の迷いのわりに、動き出してからは早かった。迷っていた期間に「転職しない理由」をほぼ全部出し切っていたから、残ったのは「やってみるしかない」だけだったんだと思う。

決断後に初めて見えたもの

動いてから見えたことがある。

転職先への連絡をした3日後、書類を整えながら「なんであんなに長く迷っていたんだろう」と思った。8ヶ月の間、比較リストを何十回作り直しても変わらなかったのに、あのサウナの外気浴から3日で動いた。

後から考えると、比較リストを作り続けていたのは「判断をするため」じゃなくて「判断を先延ばしにするため」だったんだと思う。「まだ情報が足りない」という理由で、判断する責任を回避し続けていた。完璧な情報が揃えば決められる、という仮定のもとで行動していた。でも、転職に必要な情報が「揃う」ことはない。

「もう十分考えた」と感じた瞬間、判断の材料が増えたわけじゃなかった。ただ「先延ばしにしない」という選択ができた、それだけだったと思っている。

迷い続けることの消耗

8ヶ月間、転職を迷い続けることで、少しずつ消耗していたことに気づいたのは動いた後だった。

毎日同じ問いを繰り返すことは、答えが出なくても頭と心のエネルギーを使う。「今日こそ決めよう」と思って、また「もう少し考えよう」になる。そのループが続くだけで疲れていく。

転職の判断ができていないことへの焦りと、今の会社にいることへの違和感が、毎日一緒に漂っている状態だった。それがじわじわきつかった。転職そのものより、迷い続けることの方が消耗することがある。

迷っている間にしていたこと

8ヶ月、何もしていなかったわけじゃない。

毎週のサウナは続けていたし、読書の習慣もあった。転職に関係ある本もたくさん読んだ。「転職の思考法」「苦しかったときの話をしようか」。線を引きながら読んで、「そうだよな」と思って、それで終わっていた。知識は増えた。でも動かなかった。

あのころ、無意識に「もっと情報を集めれば踏み出せる」と思っていたんだと思う。正解が見つかれば動ける、という仮定のもとで動いていた。でも転職に正解はないから、どれだけ情報を集めても「これで合っている」にならない。

転職エージェントに一度だけ話を聞きに行ったのは、迷い始めて5ヶ月目のころだった。「転職を決めていないのに行くのは失礼かな」と思いながら行ったら、担当者が「そういう方も多いですよ」とあっさり言った。その面談で、コンサルの経験が市場でどう評価されるかを初めて知った。「転職できるかどうか」の不安が少し具体的になった。情報が入ると、頭の中だけで動いていた不安が、少し地に足がついた感じになった。

あの面談が決断のきっかけだったかと言われると、そうとも言えない。でも「転職しない理由」が一つ減った気はしている。

相談を重ねてきて思うこと

きっかけを待っているうちは、動けない。

大きな出来事、決定的な一言、背中を押してくれる何か。でも実際のところ、「きっかけ」というのは後から名前がつくものだと思っている。あの日のサウナの外気浴を、今は「決断のきっかけ」と呼んでいるけど、あのとき意識していたのはただぼんやり天井を見ていただけだった。

転職を迷っている期間が長い人ほど、動き出してからの決断が早い、という印象がある。迷っている間に、「転職しない理由」を全部使い切っているから。きっかけを探しているうちは動けない。きっかけは、動いた後に見えてくることの方が多い気がしている。


あのサウナの日から5年が経った。今でも週に一度、同じサウナに行く。外気浴中に「今週、誰かの役に立てたか」と自分に問いかける習慣は変わっていない。答えが出る日が、ずいぶん増えた。

転職してからも、うまくいかない時期はあった。「あの判断は間違いだったか」と思う夜もあった。それでも「転職しない理由」を全部出し切っていたから、戻りたいとは一度も思わなかった。あの8ヶ月が、そういう意味ではよかったと今は思っている。


転職を迷っている人が、「きっかけがあれば動ける気がするんですが」と言うことがある。

気持ちは分かる。でも、きっかけを待っているうちは動けない。きっかけは「動いた後」に名前がつくものだから。あの日のサウナを「決断のきっかけ」と呼べるのも、動いた後だから言えることで、あのときは「なんかもういいかな」と思っただけだった。

「きっかけを待つ」から「今日少し動く」に切り替える——その切り替えを、転職活動の文脈で言うと、まず一社だけエージェントに話を聞いてみることだと思っている。「まだ決めていないんですが」で話し始めていい。そのくらいの軽さで十分だ。決断のきっかけは、動いた先にある。大事なのは、動くことが先だということだけだ。8ヶ月の経験から言えるのは、考え続けることと動き続けることは別物で、どちらかだけを選ぼうとすると後者の方が先に答えが出るということだ。

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Syun

早稲田大学ラグビー部出身。大手外資系コンサルを経て、32歳でフリーランスのキャリアコンサルタントとして独立。サウナとルーティンをこよなく愛する。

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