転職して後悔する人、しない人。相談を受け続けてわかった違い
転職して後悔した、という人に会ったことがある。
「思っていた仕事と違った」「前の会社の方がよかった」「こんなはずじゃなかった」。転職を勧めた側として、その言葉は刺さる。
後悔には2種類ある気がしていて、「転職先の選び方への後悔」と「転職したこと自体への後悔」は別物だ。前者は「この会社じゃなければよかった」で、後者は「転職しなければよかった」だ。この2つを混同していると、後悔への対処が変わってくる。
「転職先の選び方への後悔」なら、次の転職で修正できる。「何が合わなかったか」が分かっているなら、次はそこを基準に選べる。一方で「転職したこと自体への後悔」は、転職前の状態と現在を比べているケースが多くて、「前の会社がよかった」という記憶が美化されていることもある。
転職前は「辞めたい」という気持ちが強くて、不安を抱えながらも動いた。なのに転職後に後悔する——その話を聞くたびに、何が違ったんだろうと考えてしまう。
一方で、転職して「よかった」と言う人もいる。年収が下がっても、環境が厳しくなっても、「後悔していない」と言える人がいる。
この差はどこから来るのか、ずっと考えてきた。
後悔している人の話を聞いていると、「転職したこと自体への後悔」よりも「転職先の選び方への後悔」の方が圧倒的に多い。「こんなはずじゃなかった」の多くは、「転職した自分が間違いだった」じゃなくて「選んだ会社が合わなかった」だ。
この2つを分けて考えられると、後悔への向き合い方が変わる。「転職先の選び方への後悔」なら、次の選択肢がある。「合わなかった理由」が分かれば、次は違う選び方ができる。
後悔する人の共通パターン
後悔しやすい転職には、2つの共通パターンがある。
一つ目は、「今の会社から逃げる」転職だ。今の上司が嫌、今の仕事が辛い、今の環境が合わない——これらは転職する理由としては十分だと思う。でも「逃げ先」を選ぶ基準が「今じゃないこと」になると、次の環境でも似た問題に当たったとき、また逃げたくなる。
逃げた先が「自分が向かいたい場所」と一致していれば問題ない。でも「今より悪くなければいい」で選んだ転職先は、しばらくすると「これでよかったのか」になりやすい。
二つ目は、転職先を「条件」だけで選んだ場合だ。年収・福利厚生・ネームバリュー・残業時間。これらは大切な要素だけど、入ってみると「条件以外の部分」の比重が思った以上に大きい。
一緒に働く人、仕事のやり方、会社の空気感——これらは求人票には書いていない。条件が同じでも、職場の空気が合うかどうかで、仕事への満足度は大きく変わる。
後悔しない人に共通していること
後悔しない人は、転職前から「自分が何を大事にしているか」が明確だ。
給料じゃない。承認されることじゃない。仕事を通じて「何を感じたいか」「何に時間を使いたいか」が自分の中にある人は、多少条件が悪くても「これでよかった」と言えることが多い。
僕自身がそうだった。年収が900万から300万台に落ちて、ゼロの月もあった。月末に口座残高を確認して、ため息をついたことが何度もあった。それでも後悔しなかったのは、「誰かのキャリアの転機に関わりたい」という軸が転職前からあったから。その軸と転職先が一致していたから、条件の変化に引きずられなかった。
後悔した人の「その後」
相談に来た人の中で、転職を後悔していた人のその後が気になっていた。
「転職して後悔している」と言って来た人の多くは、後悔の理由を話しながら整理していく。その整理の中で、「後悔している」から「合わない部分が分かってきた」に変わっていく人が多い。後悔の感情はそのままでも、「次どうするか」という話に切り替わる。
一方で、後悔を整理しないまま「次の転職に行く」と早々に決める人もいる。このパターンは、同じ後悔を繰り返す可能性が高い。「今の会社が合わない」という認識だけで動くと、「今より良ければいい」という基準で次の会社を選ぶことになる。その基準は弱い。
後悔の感情そのものより、「何のために転職したか」と「何が期待通りじゃなかったか」を言語化できると、次の動き方が変わる。後悔は、うまく使えば次の転職の精度を上げてくれる材料になる。そういう意味では、一度後悔した方が次の転職は丁寧になることが多い、という気がしている。
転職前に一度だけ問いかけてほしいこと
後悔しやすい転職と後悔しにくい転職の違いを一言で言うと、「自分から出発しているか、現状から出発しているか」だと思う。
転職先を探す前に、一度だけ問いかけてほしいことがある。
「今の会社がなくなったとしたら、自分は次に何をしたいか」。
今の環境への不満や不安を取り除いた状態で、自分が本当に向かいたい方向を考えてみる。これが整理できていると、転職先の選び方が変わる。
「軸」がある人は、しんどくても後悔しない
転職後の1年間、月末に口座残高を確認するたびに「本当にこれでよかったのか」と思った。それでも軸はブレなかった。
年収が900万から300万台に落ちて、フリーランスとして独立したはいいが、最初は案件が全然なかった。
でも、「誰かのキャリアの転機に関わりたい」という理由は一度もブレなかった。相談者が「ありがとうございました」と言って帰っていくとき、毎回そこに戻れる感覚があった。だから後悔しなかった、というより、後悔する隙間がなかった。
軸がある人は、しんどい時期にそこに戻れる。軸がない人は、しんどくなったとき「やっぱり違った」になりやすい。
転職後に後悔するかどうかは、ある程度転職前に決まっていると思っている。
「今じゃないところ」に逃げるのか、「自分がいたいところ」に向かうのか。その違いが、1年後の感想を分ける。
どちらが正解かは、その人にしか分からないけれど。僕にできるのは、転職前に「自分の軸」を一度問いかける機会を作ることくらいだ。それが整っていると、多少のしんどさには耐えられる。整っていないと、少し環境が変わっただけで揺れる。
そういうものだと思っている。
相談に来る人に「後悔しない転職の共通点は何ですか」と聞かれることがある。一言で言えるとしたら「自分の軸がある転職」だと思っている。軸は最初から完璧に言語化されなくていい。「これだけは譲れない」という一つが分かっていれば、選択肢を絞れる。その一つを見つける作業が、転職前に一番大切なことかもしれない。
転職前の「後悔しないか」という問いを、こう変えて考えてみてほしい。「転職後にしんどくなっても、戻りたいと思わないか」。
今の環境への不満があって転職したいとき、「転職先が完璧じゃなかった場合、今の会社に戻りたくなるか」を考えてみる。「戻りたくない」なら、転職先が多少合わなくても乗り越える力がある。「戻りたくなりそう」なら、転職先を選ぶ軸がまだ曖昧かもしれない。
転職して後悔しない人は、「今の場所を出る理由」を持っている。それが「向かう先の軸」と重なっていると、転職後のしんどさに対して粘れる。後悔は転職前に「ゼロにする」ものじゃなく、転職後に「対処できる」ように準備するものだと思っている。「転職後のしんどさに耐えられる軸を持っているか」——それが後悔しない転職の条件に近い気がしている。軸は最初から完璧に言語化されなくていい。「これだけは守りたい」という一つが分かっていれば、それが転職先を選ぶ基準になる。そこから少しずつ整えていけばいい。